介護福祉師


第一章:孤独

4.暗闇の中

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 まるで私の人生のようだ・・・。

 私は今まで深い闇の中で生きていたような気がする。そして暗闇の中、ずっと光を探しながら生きてきた。しかし今まで光を見つけることが出来なかった。この闇の中、光を探し出せずに死んでしまうのか。もう体力も限界にきている。立っていることもできなくなってきた。疲れ果て、眠くなってきてしまっている。このままこの闇の中で終わってしまうのか・・・。

 その時、前方に白い色をした四角い物体が見えた。目をこすりそれに吸い寄せられるように近づいていく。するとそれは私が乗ってきた父の車だった。
 幻覚かと思った。死ぬ寸前だから、ありもしないものが見えてしまったのではないか。私はゆっくりと腕を前に出し、その物体に触れた。すると私の指先は金属製のものにぶつかった。
間違いない、父の車だ。
 そのことを確認した途端、全身の力が抜け、その場で失神し、倒れそうになった。ようやくたどり着けたのだ。凍えてうまく動かない腕を、服のポケットに入れ、車のキーを取り出した。そして何とかドアを開け、車に乗り込みエンジンをかけた。そして暖房を強にした。
 運転席で丸くなってぶるぶると震えて過ごした。指先は自分のものではないかのように全く感覚がなく、動かすことが出来ない。
「早く暖かくなってくれ。」
 心の中で祈り、濡れた靴、靴下を素早く脱ぎ捨てた。手に息を吹きかけ温める。暖房の風はゆっくり暖かくなってくる。しかし体の震えは治まらない。
 10分ほど経過しただろうか、暖房から暖かい風が勢いよく流れだし、私の体をゆっくりと包み込んでいった。少しずつではあるが、指先が動き始め、震えも治まってきた。
「助かった・・・。」
 大きく安堵のため息をつく。
「生きている! 生きている!!」
 繰り返し何度も唱えた。
 車にたどり着いたことはまさに奇跡だった。周りは果てしない闇が広がり、1メートル先も満足に見えない。1メートルほど左を歩いていたら、多分私の視界には入ってこず、通り過ぎていただろう。かなり近づかないと車の姿は見えない。
 その状況を見て、神様が、車まで導いてくれたものと思った。神様がまだ生きなさい、そう言ってくれているように感じた。

 車の中で体を丸め1時間が経過した頃、冷えきっていた体もようやく温まってきて、完全に指先が自分の意志で動かせるようになった。ゆっくりとハンドルを握った。
「今度こそ、家に帰ろう。」
 私はつぶやきアクセルをそっと踏み込んだ。なんとかハンドルも操作できる。車の時計を見ると、午前5時を少し回ったところだった。
 ゆっくりと運転し、なんとか家にたどり着いた。
 部屋に入る頃には満足に歩くことが出来ないほど疲れきっていた。最後の力を振り絞り、濡れた衣服を脱ぎ棄て、新しい服に着替えると、そのままベッドにもぐりこみ、意識を失うように深い眠りについた。




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